日本の遠洋マグロ漁船「第十八昭福丸」が3月14日、「極上の天然マグロ」を積んでバリ島ベノア港に寄港した。
同船は、船頭の前川渡さんが率いる全長49.7メートル、幅8.8メートル、439トンの気仙沼のマグロ漁船。バリ島への寄港はインドネシア人乗組員の乗り降り、燃料補給、食料などの積み荷作業のため。
漁穫方法は、はえ縄漁。130キロに及ぶ幹縄に多数の枝縄を等間隔に付け、その先に釣り針を取りつけた「はえ縄」を使う日本の伝統漁。投げ縄するのに6時間、揚縄作業に12時間を要する。針の数は3300本にも及ぶ。針にかかった約2メートル、80~100キロもの巨大なミナミマグロをどんどん回収する。その後、マグロのサイズなどのデータを取り処理した後、マイナス60度の巨大な冷凍庫に保存。どう猛なシャチやサメをはじめとする沖ゴンドウ(鯨の仲間)など動物の横やりが入ることもしばしば。嵐で荒れ狂う波の中の作業も。そうした中、日本人、インドネシア人クルーは毎日24時間、交代で力を合わせてゴールを目指す。
クルーは全員で25人。船頭、船長、機関長、局長、一等機関士、一等航海士、二等航海士の7名は日本人。その他の18人はインドネシア人で、コック1人と甲板作業員から成る。
以前は日本人のみの船員だったが、15年ほど前から外国人船員を雇うようになり、今では外国人乗組員はインドネシア人に絞るようになった。クルーの食事を担当するコックもインドネシア人。船内の食堂では日本料理、インドネシア料理の一通りを用意する。水は海水からの浄水器があり、冷暖房や電波もインマルサット(人工衛星を利用した船舶用通信)のネット環境も完備している。1回の操業は10カ月~1年と長い。
船頭の前川さんは、この道50年の重鎮。自分の漁船を数隻所有する船頭だった父親の背中を見て漁師の道を選んだ。船頭は総責任者。潮流、潮目、気象、海の温度や特徴を読む。現代はそれらを感知するコンピューターがあるが、それでも船頭の持つ経験と勘、センスが物を言う。狙いを定めたマグロの群れのポイントに船を走らせるよう指令、絶妙な投げ縄タイミングを出す。世界の海でマグロ達がいつまでも絶えることなく育つように生態も考慮しつつ、確実に大漁をして極上の天然マグロを日本に持ち帰ることに責任を持つ。けがの手当を施すのも、クルー全員の心を一つにまとめるのも船頭の仕事だ。漁穫量もさることながら、操業やクルーに対する前川さんへの配慮の一部始終が「日本一の船頭」と誰もが口をそろえる。「バリニーズの船員は明るくて素直。どの人種よりも温厚。今の時代はインドネシア人クルーが乗船しなければ操業ができない」と前川さん。